君とお前と歩む為に。3
僕は帝都に戻ってきていた。
ユーリの葬儀にはでなかった。
出れるわけがなかった。
ユーリが死んだ事を認めるなんて出来る訳がない。
だけど、あの棺で眠る姿は確かにユーリで…。
あの後、シュヴァーン隊長が僕の様子を見に来てくれた。
そしてそっと小さな箱を手渡された。
『遺品』だと、そう言って。
ユーリが僕に渡してくれと、遺言のように言ったらしい。
それがまた、僕にユーリの『死』の事実を突きつける。
城の中の自室に戻り、明りを点ける気力も起こらずベットの上へ座ると手渡された箱を開いた。
―――中には…。
「これは…、隊長の…ユーリの魔導器っ…」
ユーリがナイレン隊長から預けられた魔導器。
『そういや、昔お前と誓ったよな。二人で世界を変えようって。皆の笑顔を守ろうって。騎士団にいた頃、正直どうしてそんな約束をしちまったんだろうって思った。
変えられるはずないって、出来る訳がないって。だから、その夢にただ向かっていくお前に腹が立って。つい喧嘩腰になって』
――――――ユーリ…。
『ナイレン隊長のこの魔導器がいつも背中を押してくれる。お前との約束を守るために俺が出来る事はなんだ?ってな。だからこれは死ぬまで外せない。
でも、もし俺が死んだ時はお前に渡す。俺達の誓いを約束をお前に託す。だから、死ぬなよ』
――――ユーリっ。
『お前は前だけ向いてろよ。後ろは振り向かなくていい。お前の背中は必ず俺が守ってやる』
――ユーリ、だけど…。だけどっ!!
「いなくなってしまえばっ…死んでしまえば、守るなんて出来ないじゃないかっ…。また、君は僕に嘘をつくのかい?…ユーリっ!!」
手から魔導器が滑り落ちて、カタンっと音を立て床に転がった。
涙も出ないほど哀しいとはこうゆう事を言うんだろうか…。
両手で涙も流れてくれない自分の両目を覆った。
僕は、『幼馴染』と『親友』と『恋人』を同時に失ったのだ。
―――大好きだった。
あの闇色をした髪も。
アメジストのような瞳も。
自分は人をからかうくせに、からかわれる事に慣れてなくて、すぐに赤くなって…。
それすらも僕には愛おしかった。
ずっと好きだった。
『君』を『君』と知った時から。
だけど、ただの友情だと思い込ませていた。
僕も君も男だったから。
そう思っていたのに…。
この気持ちを伝えたのは、ユーリが僕を助けに来た時。
ザウデ不落宮で君を見失って、幾ら捜索しても見つからなくて。
でも生きていると信じて捜索をやめて、ピピオニア大陸へ任務を遂行中、もう駄目だと思った時…君が来てくれた。
僕は自分の命が助かった事より、君が生きていてくれた事。
これが何よりも嬉しかったんだ。
死んだら伝えられない。
凄く後悔した僕に与えてくれたチャンスだと思った。
この気持ちを全て君に伝えたら『馬鹿』って言って笑ってくれた。
涙が出る位嬉しくて、頬を伝う涙をユーリは拭って『俺も好きだよ、誰よりもお前だけをずっと…』そう言って額をくっつけ微笑む。
その笑顔をもう見ることが出来ない。
愛してると伝える事も出来ない。
ユーリ…僕は、…僕は…。
コンコンっとドアを叩く音が聞こえ、ノロノロと顔を上げると。
「失礼します。フレン閣下」
「…ソディア…」
「閣下…そのお顔は…」
何か言いたげなソディアは直ぐに表情を元に戻し、僕の前に手紙を置いた。
そこには退団届と書いていた。
「ソディア?」
「その中に、全てを書いています。フレン閣下、今までお世話になりましたっ」
くるっと踵を返し、「失礼します」と一礼をして出て行った。
僕は退団届と書かれた封筒を開き、中に入っていた手紙を開いた。
一つは退団届の書類。
もう、一つは…。
『拝啓 フレン・シーフォ様
私は、隊長に伝えねばならぬ事があります。
それはユーリ・ローウェルの事です。
私は、ザウデ不落宮でユーリ・ローウェルを刺しました。
彼は隊長の近くに相応しくない。
ずっと、そう思っていました。
そして感情のままに動いてしまったのです。
隊長にとってどんなに大切で、世界にとってどんなに必要な存在なのか分からないまま。
その後、ユーリ・ローウェルは生きており隊長を助けてくれた。
その時私は心の底から後悔しました。
その事に関しては、後で罰を受けます。
私はそれだけの事をしました。
ですが、今はお許しください。
私は今やらねばならぬ事が出来たのです。
それまでは牢に入るわけにはいかないのです』
ソディアがユーリを刺した…?
じゃあ、あの時の傷は…。
手紙を読み進める。
『あと、もう一つ。
ユーリ・ローウェルが言っていた言葉を隊長に伝えます。
彼は代理だと言っていました。
フレン隊長の隣に立てるに相応しい人が出来るまでの代理だと。
彼はもともと姿を消すつもりだったのです。
しかし、死という方法をとるとは思いもせず…』
代理…?
その言葉が頭から離れない。
ユーリが誰の代理だというのだ?
そんなはずないのに。
ソディアの手紙が頭に入らない。
ユーリは、自分から死を選んだと…?
『死ぬ?んなわけねーだろ。エステルに命を粗末にすんなって言った手前な』
そう言っていたのはユーリだ。
僕はユーリの言葉を信じる。
―――信じていたかった。



