君とお前と歩む為に。4
「あぁ、それで大丈夫。そっちの件については…」
「…フレン様…?」
声がした。
しかし、視界には誰もいない。
キョロキョロ辺りを見回すが、いない。
あれ?
首を捻ると手を引っ張られた。
「僕ですよ、僕」
そこには、ダボダボの魔導士服を『着ている』というより『着られている』ような少年がいた。
ユーリ風に言うならリンゴ頭の少年ウィチルだった。
「フレン様、最近働き通しですね。ちゃんと休まれていますか?」
心配そうに見上げてくるウィチルに微笑み返す。
「大丈夫、ちゃんと体は休めているよ」
「ですが、その隈…寝ておられないのでは?」
「…寝てるよ、大丈夫」
僕が笑って答えると、不安そうに僕の目を覗き込む。
正直、眠れてなんていない。
目を閉じれば、必ずユーリが夢に出てくる。
そして、背を向けて僕をおいて行く。
追いかけても追いかけても、決して追いつく事はない。
あんな夢を見続ける位なら、眠りたくなんてない。
「フレン、貴方一度でも泣きましたか?」
声がした方を振り向くと、そこには僕の主。
ヨーデル殿下がいた。
……泣く…?
「…貴方にとって大事な人が亡くなった。貴方は、泣きましたか?」
僕は、何も言えず目を閉じただ首を振った。
「そう、ですか…」
「僕は信じたくない…。信じたく、ないんです」
ユーリが今この世にいないことを。
「分かりました。…フレン、貴方に休暇をあたえます」
「休暇っ!?お言葉ですが僕は今…」
何かしていないと、気が狂いそうになる。
「その状態で働くことは、部下に休みをとるなと言っているも同じです」
「ですが、ソディアがいない状態で」
「僕がいますよっ!大丈夫っ!」
ウィチルが胸を張って答えてくれた。
皆優しい。けどその優しさが凄く辛い。
それでも、嫌とはもう、言えなかった。
強制的に休みを取らされて、どうする事も出来ず僕は外を歩いていた。
「…ユーリ…」
無意識に呟く。
少しでもユーリを感じたい。
足が勝手に下町へ向いていた。
下町は相変わらずの賑やかさで、それが嬉しかった。
ぼんやりと歩いていると、昔から僕とユーリによくしてくれた声が僕を呼び止めた。
「ハンクスさん…」
「なんじゃなんじゃ、お前らは揃いも揃って同じ時に同じタイミングで戻ってきおって」
「え?」
揃いも揃って?
それは、どうゆう意味?
「ユーリも今、部屋におるぞ」
「ほ、んとうに…?」
「こんな嘘、ついてどうするんじゃ」
本当に、本当にっ!?
ユーリが生きているっ!?
ハンクスさんの言葉を最後まで聞くことなく、僕は走り出していた。
「フレンっ!?…あやつ、何て顔を…」
ユーリの部屋へ。
行きなれた道を走り続け、箒星の女将さんの声を聞き流し階段を上り扉を開けた。
「…ユー、リ…?」
見慣れた黒髪がベットの上で寝ていた。
震える声で呼ぶと、クルリとこっちを向きいつもの顔で笑って。
「よぉ、フレン」
そう、僕の名を呼ぶ。
本当にユーリだ…。
「お、おいおいっ。何、突っ立ってるんだ?まるで俺が死人みたいに」
腰に手を当てて笑う。
生きてる。
僕は衝動的に動いていた。
横になっているユーリの体に抱きついた。
「ちょっ、フレンっ!?」
「ユーリ、生きてた…やっぱり、生きていたんだねっ」
「…馬ー鹿。なんで、俺が死ぬんだよ」
「うん、うんっ!!ユーリっ!!」
力の限り抱きつき、ユーリの頬に口付ける。
照れた様に赤くなって、でも素直に口付けをユーリは受け入れてくれた。
その後、いろいろ話をした。
どうして、こうなったのか。
でも、僕にまで嘘をつかなくてもいいのに。
そう拗ねると、ユーリは笑った。
つられて、僕も笑う。
その時、丁度部屋の中へハンクスさんが入ってきた。
「フレン…。お主何をしておるんじゃ?」
「え?何ってユーリと話してるんですよ?」
「ユーリと?ユーリは何をいっておるんじゃ?」
「?、さっきから話してるじゃないですか?」
「何を?」
「聞こえないんですか?これから僕と一緒にいてくれるって。騎士団に戻ってきてくれるって話してるじゃないですか」
「聞こえるも何も、そこにおるのは確かにユーリじゃが…。だが、もう話をする事も出来ない『遺体』なんじゃぞっ?」
ハンクスさん、何を言っているんだろう?
それに手には大きな花束。
「それ、ユーリにですか?」
「あ、あぁ。そうじゃ。わしより先に逝ってしまった馬鹿者に、な」
逝ってしまった?
一体何の事だろう?
「花束って、確かにユーリは綺麗だけど」
『誰が綺麗だっ!!』
顔を真っ赤にして怒鳴るユーリに頬が緩む。
「あははっ、いいじゃない。ホントの事なんだから」
ユーリの頬に触れて、キスを落とす。
あ、ユーリが拗ねちゃった。
そっぽ向いて、動かなくなった。
もうそんな直に拗ねないでよ。
そう言って、またユーリの顔にキスをする。
そんな僕を見て、ハンクスさんが愕然とした。
だけど…。
「なんて、事じゃ…。ユーリ、お前の死がフレンを壊してしまった…」
ハンクスさんの呟きが僕の耳には届かなかった。



