君とお前と歩む為に。5
ユーリが僕の元へ戻ってきて、半年が経った。
今、僕は新生アスピオに来ていた。
ユーリの仲間だった天才魔導士リタ・モルディオに精霊魔術について聞くために。
「精霊を詳しく研究してて気付いたんだけど」
「なにを?」
「精霊って『音』に反応するみたいなの」
「音?」
「うん。だから音を上手く利用すれば、少しでも素質があれば道具がなくても魔術を使えるようになるわ」
「なるほど」
「で、素質がない人の為に道具を用意したの。これがその試作品」
手渡されたそれは円形をした小さなアクセサリーのようなもの。
「『C.コア』ってエステルが名づけたわ。今まで武器についていたようなスキルをこれから手に入れることが出来る」
「ということは、これが僕達の能力を上げてくれるんだね?」
「そうゆう事ね」
C.コアを胸ポケットにしまい込み、小さく回復術を試してみる。
すると、先程戦闘で受けた傷がみるみる治っていく。
「うん。成功みたいね。あと一応魔導器型と2通り作るつもり。出来上がったら報告する」
「あぁ、ありがとう」
さて、帝都に戻ろう。
そう思って踵を返す。
すると、リタが僕を呼び止めた。
「あ、あのね?フレン。ユーリの事なんだけど…」
「?、ユーリがどうかしたのかい?」
「今度皆で集まってお墓に行こうって話し聞いてる?あ、あたしは別にあんたが心配で誘ってるわけじゃないんだけど、エステルが」
お墓?
一体何の話だろう?
「リタ、話が見えないんだけど」
「はぁ?何言ってんの?ユーリのお墓に決まってるでしょ?」
「ユーリのお墓?一体何の冗談だい?」
「え?」
「ユーリが死ぬわけないだろ?」
「フ、フレンっ?ちょっと、アンタしっかりしなさいよっ」
リタの表情が焦りに染まる。
何をそんなに焦っているのか。
その表情が面白くて、笑いがこぼれる。
だけど、そんな僕を見てリタが見るからに青ざめた。
「フレン、アンタ…」
「あはははっ!どうしたんだいっ?リタっ。そんなに青ざめて」
まるで僕が魔物か何かみたいに。
「フレンっ!!どうしたのよっ!!アンタらしくないわよっ!!」
「…五月蝿いなぁ…。あぁ、もしかしてリタ。君には聞こえないんだね?ユーリの声が」
「はぁっ!?アンタ何言ってっ!?」
可哀想に。
君はユーリに認められなかったんだね?
「ユーリは、ずっと僕の隣にいるのに…」
「隣?隣になんて誰もいないわよっ。アンタは一人でアタシをここに呼び出したじゃないっ」
「一人?リタはおかしな事を言うね。ずっと一緒にいるよ、ユーリは。今だって僕に笑いかけてくれてる」
「フレン、一体何見てんのよ…そこには誰もいないじゃないっ」
「君こそ、何を見ているんだい?君はユーリの仲間だろう?なのにユーリの姿が見えないのかい?」
そういえば、ハンクスさんも声が聞こえないって言っていたな。
でも、まぁ、そうだろうね。
ユーリを愛しているのは僕だけ。
ユーリが求めているのも僕だけなんだ。
「そうだろ?ユーリ」
『あぁ。フレン、行こうぜ。約束を一緒に果たすんだろ?』
「うん、ユーリ。皆の笑顔を守ろう…」
ユーリが前に進もうって言ってくれるから。
僕は、今度こそ帝都に戻ろうとした。けれど…。
「フレンっ!!お願いだからしっかりしてっ!!ユーリは死んだのよっ!!もう、いないのっ!!」
目に一杯涙をため、僕の前に両手を広げて立ちはだかる。
リタの体が震えている。
どうして、そうまでしてユーリを否定するんだ?
ユーリはここにいる。
僕の横で微笑んでくれてる。
なのに…それを、否定するのなら…。
「…いい加減にしてくれないか?リタ。僕はそんな冗談に付き合っている程、暇じゃ無い」
「フレンっ!!」
「もし、邪魔をするのなら君を捕らえる」
「くっ…いいわよっ。捕らえればいいじゃないっ!!」
…本当に邪魔だね、君は…。
こんな事したくはないけれど。
「フ、フレン…っ!?」
剣を引き抜き、リタの喉に突きつけた。
「邪魔を…しないでくれ。僕は、ユーリとの約束を果たすんだ」
「いやっ!!アンタが元に戻らないなら」
リタが武器を構え、呪文を唱え始めた。
…そうまでして、邪魔をしたいのか?
そうまでして、僕とユーリを引き離そうとするのかっ?
「残念だよ、リタっ…」
突きつけた刃を振り上げた。だが。
「フレンっ!!待つのじゃっ!!」
何かが僕の腰にぶつかった。
視線を下げると、金髪のおさげが大きな帽子から見え隠れしていた。
「パティ…?」
小さく口にすると、パティはバッと僕を見上げてキッと目を吊り上げ僕を睨み付けた。
「どうしたのじゃ、フレンっ!!」
まるで、信じられないと言う様に、僕を睨みつけている。
けれど、僕には…。
罪悪感も何も込み上げてこない。
それでも、彼女達はユーリの仲間だったんだから…。
「すまない、パティ。僕はユーリとの約束を果たさないと…。ユーリが呼んでるんだ。僕のことを…」
パティの手を外し、彼女の体を押しやる。
バランスを崩したパティは、小さな声をあげ尻餅をついた。
だけど、…僕には、関係ない。
剣を鞘におさめ、足を早めた。
帝都に戻って、早く部隊の再編をしなくては…。
僕は、ただ前を向いて歩き出した。
「フレンっ!!」
悲痛な二人の叫び声は、僕を止める事が出来なかった。



