君とお前と歩む為に。6
俺は今の光景に目を疑った。
まさか、フレンがあんな事をするなんて、思わなかった。
「大丈夫か?リタ、パティ」
フレンが立ち去った後、呆然としている二人に声をかけた。
二人は同時にキョトン顔をして、はっとしたように意識を取り戻したかと思うと同時に叫んだ。
「うあぁあぁぁあっ!?アンタっ!?」
「ユーリなのじゃっ!!」
相変わらず姦しい二人だ。
そんな騒がしさもなんだか懐かしく感じて自然と笑みが浮かんだ。
「本当に本物なのかっ!?本当にうちのユーリなのかっ!?」
「おいおい、そんなに驚く事かよ」
「当たり前じゃないっ!!どうしてっ!?アンタ、確かに死んで…まさかっ!?」
「ははっ、安心しろよ。幽霊なんかじゃねーから」
俺が笑って二人の頭を撫でると、二人の瞳から涙が零れ落ちた。
「…うぅっ…馬鹿っ!!生きてるなら生きてるって言いなさいよっ!!」
「うちは信じてたのじゃっ。ユーリは絶対生きてるって…っく…ふぇ…ユーリぃ…良かったのじゃぁ…」
二人が同時に俺に縋る様にきつく抱きつき、ただただ泣きじゃくった。
仲間が俺の死を悲しんでくれる。
これほど嬉しい事はない。
「悪かったな、心配させて」
「そうよっ!!アンタなんか、アンタなんかっ!!」
宥める様にただ頭を撫で続ける。
二人とも少し身長が伸びたんだろうか?
頭が旅をしていた頃より少し高い。
成長が目に見て分かる時の分だけ俺は心配させていたんだな。
「ありがとな。二人とも…」
どの位そうしていただろうか。
二人が泣き止んだ頃には、既に日も暮れ夜になっていた。
『家に泊まりなさい。逃げんじゃないわよっ!!』
そう言ってリタが新しい自分の研究所に案内してくれた。
新生のアスピオは前と違い空が開けており、普通に青空が差し込む学術の都市になっていた。
そんな中の、リタの新しい研究所は、これまた相変わらずリタらしい部屋だった。
そこかしこに本が散乱しており、寝るスペースはほとんどない。
「リタ…お前、一体どこに寝てるんだ?」
「なっ!?アンタに言われたくないわよっ!!アンタの部屋だって似たようなもんじゃないっ!!」
「いや、それはまぁそうなんだが…」
「それに本を同じ高さにすれば、その上に布団敷いて寝れるし」
「まぁ、そうか」
「ここで本来なら突っ込みを入れたいところじゃが…どう入れていいのか分からんのじゃー」
パティがリタの変わりにお茶をいれ、リタはそのお茶を置くスペースを作る。
とはいえ、テーブルが引き吊り出せなかったのか、本を上手い事円形にまとめ、その上に布をかけテーブルの代用にした。
だが、そんな行動をしていても俺がいなくなるのを防ぐようにチラチラとこっちを見ている。
それとも、まだ本物だと思っていないのか。
まぁ、それはそれでも構わないんだけどな。
本をよけ、小さなテーブルをとりだし、囲むように座る。
パティがお茶とそれに合わせケーキを人数分テーブルに置く。
お茶を一口、口の中に含むと何だか懐かしい味がする。
それにまた心が温かくなった。
そんな暖かくふんわりした空気をリタの怒声がぶち破った。
「でっ!?」
「ん?」
「どーゆー事よっ!!それなりの納得する理由があるんでしょうねっ!!」
「んー、まぁ、あるって言えばあるんだが」
「ユーリっ!!もう、隠し事はしないって約束したはずじゃっ!!」
二人に問い詰められ、苦笑いがつい出てしまう。
だが、悪い気はしない。
「悪ぃ、そうだったな。…話すよ。実は」
俺が口を開きかけたその時。
「その話、私も聞きたいわね」
ドアが開き、相変わらずの魅了させる美しいプロポーションをしたクリティア族のジュディスがニッコリ笑って入ってきた。
その微笑に冷気が混ざっているのは気のせいでは……ないらしい。
「ジュ、ジュディ…?」
「私、嘘をつかれるの好きではないの」
あ、あのジュディスさん?
何故、拳をきつく握り指を鳴らしておられるので…?
「それに『不義には罰を』だったわよね?確か」
「…そういえば、そうだったわよね?」
リタの目がキラリと光る。
おい、リタ。なんだ、その構えはっ!?
まさか、こんな狭い部屋で術をぶっ放す気かっ!?
「…今回ばかりは、うちもやるのじゃっ」
パティ、銃で撃たれたら俺本当に死んじまうってっ!
「お、落ち着けって三人共っ」
一応言ってみるが、
「これが落ち着けるかぁーーっ!!一回吹っ飛べぇーーーっ!!」
リタの魔術が真っ直ぐ俺に向かってくる。
防御しようとした所を、パティとジュディスに殴られバランスを崩し見事に直撃を受けた。
リタを見ていたはずが、視界が天井に変わって衝撃が全身に伝わり気付けば床しか視界に入らなかった。
「ひ、ひでぇ…」
これは流石にあんまりじゃないか?
と思わなくも無いが。
「当然の罰よっ!!」
「罰ね」
「罰なのじゃっ!!」
あまりに嬉しそうに、三人の目が優しく笑っているから。
なら、まぁいいか。
受けるに当然のことをしたんだと逆に納得できてしまう。
のそのそと起き上がり、座りなおすと三人も改めて座った。
因みにリタの魔術によりドアは破壊されたのは余談である。
「それで?どうして、こんな事をしたの?」
「…ギルドと騎士団で今抗争が起こっているは知っているな?」
三人が頷く。
「俺はその原因を探る依頼を受けていた」
「そうね。貴方はその為に一人で各ギルドの調査をおこなっていた」
「そのギルドの中にこの抗争を発展させて商売をしようとしているギルドを見つけた。だが、俺がそれに気付いた事が相手にばれてしまった。
んで、ダングレストの人を盾にとりやがってな。だから俺一人呼び出しを受けた。流石にあれだけの人数がいるとは思わなくて」
「闘技場200人切りしたユーリですら驚くなんて、どれだけいたのじゃ?」
「わっかんねぇ。あれだけの人数、数えるなんてできねぇよ。ただ、まー、途中でおっさんが加勢してくれたから」
「おっさんがっ?」
「まぁな。一人残らず倒せりゃ良かったんだが、悔しいが無理だった。それにその所為で完全に俺の顔がわれちまった。
調査に行く前にすぐに逃げられんだよ。だったら、どうするか?って考えた所おっさんが死んだ事にしてみれば?ってな」
「そーう、おっさんの所為なのね…」
「あら?でもあの死体は?凄くリアルだったけれど?」
「あー、あれ。デュークに精霊と会話してもらってマナで作ってもらったんだ。おかげでばれなかっただろ?」
「…リアル過ぎて、フレンが信じ込んでしまったのじゃ」
会話が止まった。
確かに、死体の効果は抜群だったようだ。
抜群すぎて…いや、でも待てよ。
俺はアイツに…。
首を捻っていると、リタが言い辛そうに口を開いた。
「今フレン、幻覚が見えてるみたい。ヤバイわよ」
「幻覚?なんの?」
「アンタのに決まってるでしょっ」
「俺の?なんで?」
「貴方が死んだと思いたくなくて、でも死体を見せ付けられて精神が壊れつつあるのね。きっと」
「ちょ、ちょっと待てっ!俺はフレンに生きているって手紙で知らせてるぞっ!!」
そしてまた会話が止まった。
あ、なんだ。その疑いの目はっ!!
「嘘じゃないからな。これは騎士団の問題でもある。だからちゃんと伝えたぞ。俺からの手紙だって証拠に俺の魔導器と一緒にっ!!」
…まさか、手紙を読んでいないのか?
だとしたら、納得がいくんだが…。
とりあえず目の前のケーキに手を伸ばそうとしたが、
「ようやく、見つけたぞっ!!ユーリ・ローウェルっ!!」
その声に手が止まった。
そこに立っていたのは、フレンの横を支えている副官だった。



