君とお前と歩む為に。8





フレンは、俺に触れるだけのキスをして、そのまま意識を失い俺の上に倒れ込んだ。
俺をきつく抱きしめたまま…。

「…で、大丈夫なの?あんた」

倒れた俺を見下ろしながらリタが心配そうに言う。
しかし、その割りに言葉は相変わらずだが。
視線を巡らせると、ジュディとパティもいた。

「あん、まりっ…大丈夫じゃない、な。結構、重いんだっ…こいつっ」

しかも、ガッチリ掴まれていて腕が離れない。

「きっと、離したくないのね。貴方を」
「ジュディ…、笑ってないで助けてくれ」
「あら。それは出来ないわ。やっと会えた恋人同士を引き離すなんて私には無理よ」

何か微妙にまだ怒っているようだ。
言葉の端々に助ける気はありませんと言っている。

「しばらく、そのままでいるといいのじゃ」

パティもニヤリ顔で言う。
一体何の冗談?と言いたい所だが皆真面目な目をしている。
これは、本当にしばらくはこのままでいなきゃいけないよう気がしてきた。
半ば諦めかけていると、遠くから必死に俺の名を呼ぶ声がする。
数秒後、俺の上にかかる圧迫が三倍になった。
一瞬ありえない圧迫に身が出そうになる。
文句を言おうにも言えなかったのは…。

「ユーリっ!!本当にユーリだよねっ?そうだよねっ!?」

ボロボロと涙を流しながら、フレンの更に上に乗っかり泣き続ける。
カロル…泣いてくれるのは嬉しいんだが…。

「そう、だっ…ちょっ、カロル…死ぬっ」
「ユーリ…っ…うわああああああんっ!!」

口しか見えない位、大口をあけて大声で泣き喚くカロル。

「ユーリ…、生きてっ…生きていたのですねっ?」
「エ、エステルも、ちょっ、マジで重いっ…」

エステルまでカロルにつられて、俺の上に体を乗せて泣いた。
三人分の体重が俺に乗っかって、今回は嘘じゃなくあの世へ旅立ちそうだ。
それに、俺とカロル、エステルに挟まれているフレンも多分辛いだろう。
まぁ、意識はないけれど。

「おんや?青年、モテモテね」

…おっさん…。
今頃登場かよ…。
ヘラヘラと歩きやがって。
若干苛立ちを覚えるぞ。

「とにかく、騎士団もギルドも一旦撤収したんだから、宿屋か何処か落ち着ける所に行きましょうや」
「…だったら、この泣き虫二人と引っ付き虫を何とかしてくれ」

レイヴンが、ふっと小さく笑うとエステルとカロルの頭をポンポンと優しく叩いた。
その後のリタは速かった。

「おっさんっ!エステルに触るなっ!!」
「ぐふぉっ!?」

リタのマフラーがレイヴンの頬を叩き、遠くへ吹っ飛ばす。
見事な弧を描き宙を舞った。
…相変わらず良い一撃だと妙な所で感心してしまう。

「大丈夫?エステル」
「…リタ…はいっ。大丈夫ですっ」

リタが差し出した手を取り、すくっと俺の(更に上にいるフレンの)上に立ち上がる。

「…のは、いいが…頼む、から、俺から、降りてくれ…」

重い…。 最後の言葉が重みに耐え切れず声にならなかった。
エステルが慌てて俺から降り、カロルもいつの間にか戻ってきていたおっさんに抱き起こされた。
おっさんに抱っこされても嫌がらず、寧ろ首に抱きつきながら泣いている。
まるで、親子だな。
そんな二人が微笑ましかった。
さて、と。
俺も起き上がるか。
重いと言えど、フレン一人位は何とかなる。
二の腕の部分にフレンの腕が回っており、俺を抱き締めたまま離す気配は無いが、それでも手で支えて何とか起き上がる事は出来る。
…上半身を起こし、手が外れるかと思ったが外れない。

「相変わらずだな、お前…」

変な所に、変な執着心を持つんだよな…お前は。

「『意地でも離すもんか』って感じね。彼」
「…確かにな」

ジュディとパティの力を借りて何とかフレンを離し立ち上がる。
すると、呻く様に小さな、本当に小さな声で『ユーリ』とフレンが呟いた。
そこまで、俺を求めてくれてるのか?フレン…。
今更ながら自分のした事が決してやってはいけない事だったのだと、思い知らされた。

「さて、どうするか。こいつを連れてギルドの宿屋は無理だしな。かといって、帝都に帰るにも外にはまだ騎士団がいる」

とは言え、こいつをこのままの状態にして置く事も俺には出来ない。
頭を捻って考えていると、ジュディがあっさりと答えを出してくれた。
ジュディはただ空を指差しており、だがそれでピンときた。
そうか、バウルに乗せて貰えばいいんだな。
バウルにはフェルティア号がセットでついてくる。
あそこならば誰にも手は出せないだろう。
騎士団をソディアに、ギルドをハリーに任せ俺達はバウルに頼み船に乗り込んだ。