君を恋い慕う





【3】



一先ず、オレ達はバウルに頼み、帝都へと向かった。
何故かと言うと、ユウリが探している男が騎士団の人間だったという事から。
一応、騎士団にはフレンがいるし、こっちには副帝のエステルもいる。
調べるには持って来いだしな。
真っ直ぐ貴族街横の入り口に降ろして貰い、そのまま真っ直ぐ城へと向かう。
ユウリは泣かない限りは特に体に影響は無く、ただ、オレの後ろをぴったりとくっついてくるだけ。
その所為か、リタもビビる事も無く、皆で城へと向かい、城門へ着く。
城門へ着いたのは…いいんだけど。
何か何時もと感じが違った。
門番の兵もいないってのはどーゆーこった?

「…?」

先頭を歩いていたオレが振り向くと、皆も首を捻る。
一体なんなんだ?
そう聞こうと口を開いた瞬間。

「ユーリ殿ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

ありえない声を上げて、ありえない人物が全速力で走って来た。

「ソディアさん、です?」

本当にありえな人物が声を上げて、ありえない人の、オレの名前を呼んで走ってくるから、思わず一歩後ずさる。

「行きますよっ!!」
「へっ?」
「さぁ、急いでっ!!」
「なっ?えっ!?」

ガシッと手を掴まれ、来た速度と同じ速度で引っ張られる。
呆気にとられた皆を置いて、連れ込まれたのは、何故かフレンの自室。
なんでこんなトコに?
思ってソディアを見ると、ソディアはフレンの寝室へとオレを押しやった。

「…フレン?」

そこにいたのは勿論フレンの部屋なのだから、当然フレンなのだが。
確かにフレンはいた。
青い顔をしてベットに横たわっている。

「おいおい…。なんだ?どうしたんだ?」
「分からない」
「分からないってなんだよ。一体何時からだ?」

そっと寝ているフレンに近寄りその頬へと触れる。
ひやっとしたまるで精気を感じない感覚につい手を引いてしまう。

「…先日、テムザ山へ魔導器の調査へ行った時からだ。あの時、団長は調査の為と、お一人で頂上へと登られた。しかし、幾ら待てども帰って来なく、不安に思った兵が私を呼びに来たのだ。そして、私が急いで頂上へ登り、団長を発見した時にはもうこの状況だったのだ」
「ちっ…。っとにだからあれほど一人で行動すんなって言ったのに」
「団長はずっと『ユウリ』と呟いておられて、こうなったら貴殿を連れ込むしかないと」
「…なんつー判断だ」

もう一度近寄り、肩を軽くゆすってみる。
すると、その瞼がうっすらと開く。
それを確認する為、フレンの上から覗きこむと。
今度こそぱっちりと瞼が開きその澄んだ双碧が見える。

「お?起きたか?」
「『ユウリ』…?」
「おう?」
「…会いたかったよ、『ユウリ』っ」
「おわっ!?」

フレンの腕が伸び、ぎゅっと抱き締められ、唇にむにゅっと…って、ああぁっ!?

「んんんっ!?んんーーーっ!!」

な、なんだってんだっ!?
何でいきなりキスっ!?
ま、待て、落ち着けっ、って落ち着ける訳ねぇしっ。
兎に角離れるっ!!
ぐいっと腕に力を込めると、何とか腕の中にいるもののフレンと唇の距離をとる事が出来た。
お前、行き成り何しやがるっ、と叫ぼうと息を吸って声を出そうとした瞬間、ユウリにそれを遮られた。

『フレズ様っ!!』
『ユウリっ!!』
「…は?」

オレ達の上。
要するに頭上にて、感動の再会が行われていた。

「ちょっと待て?一体どう言うこった?」
「…要するに、僕もあのフレズと言う幽霊にとり憑かれていたと言う事さ」
「フレン?」

オレを抱き締めたまま、上半身を起こすと、オレを見て笑った。
肌の色も、暖かさも何時ものフレンに戻っている。

「まさか、君もとり憑かれているとは思わなかったけど…探す手間が省けたな」
「…って事は何か?ユウリの探し人はアイツって事か?」
「多分ね。フレズもユウリと言う黒髪の女性を探してるって言ってたから」

オレとフレンは、自分達の上でラブってる二人を見た。
二人はぎゅっと互いに抱き締めあい幸せそうに微笑んでいる。
まー、何はともあれこれで成仏出来るって訳だ。
じーっと二人を見ていると、何故かあちらもこっちをじーっと見ていた。
あ?あぁ、そうか。
男同士で抱きあってるのが可笑しいのか。
オレは、フレンから離れ立ち上がると、何故か、頭上の二人も距離が出来てしまった。

『…ユーリ様』
『フレン団長代理』
「何だよ?」
「何かな?」

二人に聞き返すと、ユウリが顔を赤くしてゆっくりと口を開いた。

『その…お願いがございます』
「お願い?」
『やっと再会が出来たのです。生きてる時にフレズ様としたい事が沢山御座いました。もう生身でする事は許されない。でも、せめて…せめて、残されたこの僅かな時間に出来る事をしたいので御座います』
「あー、うん。やればいいんじゃねぇの?」
『そ、それが…私も、フレズ様も、お二人に取り憑いて現世に留まっている存在。お二人が共におらねばここを離れる事が出来ないのです』
「…成程。ようするに、僕達が一緒にそのやり残した事をすれば、取り憑いている君達にもそれが適応される、と、そう言う事かな?」
『はい』

オレとフレンは一瞬顔を見合わせ、互いに苦笑いを浮かべると、また二人に視線を戻して頷いた。

「構いませんよ。男の僕達でもよろしければ、ですけど」
「…ま、乗りかかった船だしな。んで?やり残したってのはなんだよ?」
『はいっ。まずは』
「まずは?」

一瞬嫌な予感が胸を駆け抜ける。

『フレズ様と一緒に街を歩きとう御座います』

きゃっ。
顔を真っ赤にして頬に手をあてて…きゃって、……あぁ、もう、いいや。
要するに【デート】って奴だな?
オレが心の中で問い掛けると、ユウリは大きく嬉しげに頷く。
オレ達は二人を成仏させる為、オレとフレンのキスシーンを目撃して石化したソディアを込みで追いついて来た皆に状況を説明すると街へと繰り出した。



※※※



『見て下さいっ、フレズ様っ。あれっ』
『どれ?…あぁっ、あのふわふわの純白のワンピースかい?』
『はいっ。とても可愛らしい』
『確かに可愛らしい君にとても似合いそうなデザインだ』
『…フレズ様…』

……。

「おい、フレン…」
「…言いたい事は分かってる。分かってるが、敢えて言わないでくれ」

二人の為に外に出てマルシェに来たのはいいものの。
正直ぐったりしている。
何が悲しくて、男二人で手を繋いで歩かなきゃならねぇんだ…。
オレもフレンもお世辞にも小さいとは言い難い。
だから尚更、オレ達はまるで異色に映っているだろうな。
とか思ったんだが…。

「…あの二人美形のカップルね〜」
「うんうん。女の人の方が少し大きいけど、でも、何かそれでも隣の彼氏が逞しい所為かバランスが取れてるよね」
「あ〜…いいなぁ…。アタシも彼氏欲しー」

と周りが好き勝手にオレを女に仕立て上げて、カップル認定をしてくれるもんだから怒り通り越して脱力感が溢れている。
そんな中、ユウリがフレズと手を繋ぎたいと言うから、オレ達も繋がなきゃならない羽目になり…。
そして今に至る、と。
手を繋ぎながら、建ち並ぶ店の通りを歩いている。
ちょっと歩くとあれ可愛い、これはなんだ、あそこに行きたい…きりがねぇ。
色々考えていると、二つの視線がオレに来ている事に気付く。

「…どうした?」
『…あれ』

そう言って指さしたのは、二人が可愛い可愛い言っていたワンピースだ。
どうする?オレ。
さっきから嫌な予感しかしない。
逃げるなら、今じゃないか?
今だったらまだ間に合う。
逃げろ、オレっ!!

「もしかして、あれが着たいのかい?」
「余計な事言うなぁっ!!フレンのアホぉっ!!」

思わずフレンの胸座を掴みかかるが、フレンは一切取り合わず。

「だが、君は幽体だろう?どうやって着るんだい?」
『ユーリ様に着て頂ければ、私も着る事が出来ます』
「成程。行こうか。ユーリ」
「じょ、冗談じゃねぇっ!!オレは着ないからなっ!!」

フレンから手を離し、距離をとる。
店から離れる様に、フレンから離れる様に。
だが…。

『も、申し訳ありません…。ユーリ様は、男性ですものね…。私は何て事を…しくしくしく』
「うあっ!?」

すっかり忘れてた…。
ユウリが泣いたら頭が痛くなるって事…。
頭ががんがんと銅鑼を叩く。
その間に空いた筈の距離がフレンにより縮められ。
フレンはオレの手をとった。

「…ほら、行くぞ。ユーリ」
「お、まえ…自分は関係ないからって…」
「お金は僕が払ってあげるから」
「そうじゃ、ねぇ…」

ズルズルと引き摺られるまま、オレ達はその洋服店に入り、フレンがオレの手を掴んだまま、店員に話しかける。

「あの、ディスプレイされたワンピース貰えますか?」
「はいっ。少々お待ち下さいませっ」

いっそ無かったらいいのに…。
そう思ったのがユウリに聞こえたらしい。
頭痛が酷くなる。
そして、オレの微かな希望は店員の持って来た、少し大きめのワンピースにより全て消え失せた。
フレンに試着室に追い込まれ、ユウリのキラキラした視線に刺され、仕方なくオレは着替える。
膝下丈のワンピース。胸の所はゴムでギャザーが出来ている。
ふわふわのワンピース。
……オレは一体何をしてるんだろう…。
この目の前の鏡に映ってるコイツは誰だ?
オレか?オレなのか?
……オレだよなぁ…。

「ユーリ?いいかい?開けるよ?」

オレの返事を待たずフレンが試着室のカーテンを開ける。

「……」
「……」

無言のオレ達に比べ…。

『あぁ、良く似合ってるよ。ユウリ』
『本当ですか?フレズ様。嬉しい…』

ラブラブな二人。
確かに、ユウリはオレが着替えた途端、民族衣装からオレが来ているワンピースと同じものに変わっていた。

「……フレン。オレ死んでもいいか?」
「…今、君に死なれると困るな」

困ると言っている割に笑っているフレンを、オレは力の限りどついた。