君を恋い慕う





【4】



素直に聞く。
こんなに素直なのはオレらしくないのは知ってる。
けどそんなオレの個性やプライドを捨ててまで、オレは聞きたい。
どうやったらここから逃げれる?
頼む、この状況から誰か助けてくれっ!!
いや、もういっそ、誰か笑ってくれ。
男がこんな恰好してるって、おかしいって、指さして笑ってくれ。
オレは男だぞ?
何が悲しくて、こんな…こんな…。

「男と一つのグラスにストロー二本でジュースを飲まなきゃならねぇんだ…」
「…大丈夫。ちょっとやそっとじゃ男同士に見えないから」
「尚更ムカつくわっ!!」

白いふわふわワンピースに、白いハイヒール。
履きなれない靴の所為で、転びかけること数回。
そして、それを全てフレンに助けられ屈辱もいいとこだ。
そんなオレの上で仲睦ましくジュースを呑んでいるユウリとフレズ。

「……なぁ、そろそろ帰ろうぜ…。もう、オレ死ぬ…」
「僕はそれでも構わないけれど…」

じっとフレンが上を向いて、苦笑いをオレに向けた。
分かってる。
全然こっちに意識が無いんだろ?

「……今の所オレに得が一つも無い。お前はいいかもしれねぇけど…ぶつぶつぶつ」

オレが余りにも文句を言う所為かフレンは一つ溜息をつき、店員を呼び寄せると、小さい声で何かを頼み店員は小さく礼をすると戻って行った。

「まぁまぁ、ユーリ。大丈夫。ちゃんと可愛いから」
「男に可愛いは褒め言葉じゃねぇんだよ」
「そう?可愛いものに可愛いって言うのは悪い事じゃないだろう?」
「んじゃ、お前は可愛いって言われると嬉しいのかよ?」
「うぅ〜ん…時と場合によるかな?」
「時と場合ってなんだ…」

もう、このフレンとのやりとりですら疲れ果てている所に、再び店員が現れた。
手には特大のパフェを持って。
お待たせしましたと、テーブルに―――しかも、オレの前に―――置くと店員は再び奥へと戻って行った。
自分の目の前にある苺のパフェとフレンの顔と交互に見る。

「食べていいよ。君の為に注文したんだから」
「マ、マジ…?」
「何時もは男が甘いものなんてって、店で食べるの嫌がるだろう?でも今日はそんな心配もしなくていいし」
「お、おう…。頂きます」

そうか。
女装にはこんな利点があるのか…。
細く長いスプーンを持ち、恐る恐る一番上にある苺ごとアイスを掬い、口に運ぶ。
口の中に苺の酸味とアイスの甘さが溶けて広がり…一言で言うなら美味い。

「…美味しい?」

喋る為に口を開くのが嫌で、大きく頷くと、フレンは穏やかに笑った。
その意味がなんなのかも知らずに、オレは目の前のパフェを攻略して行く。
ここの店のパフェは実に美味かった。
三段の層になっているパフェで、一番上は生クリームとバニラアイス、次にストロベリーのアイスがあり、最後はフレーク。
そのバランスが最高に良く、あっという間に平らげてしまう。
ここのパフェやばいぞ。
マジにヤバい…。
じっとメニューの方に視線を移し、文字をジッと読む。
他に…チョコレートとキャラメルがあるのか…。次来た時食べよう。
女装は嫌だが、エステルとかパティあたりを誘えば、自然に食える。

『ユーリ様、甘いものがお好きなのですね』

…まぁ、嫌いじゃない。

『ふふっ。私もです』
『あぁ、そう言えば、君はいつも甘い物を食事の最後に出してくれていた。あれは本当に美味しかったよ』
『本当ですかっ?フレズ様っ』

行き成り話しかけておいて、再び二人の世界に戻ってしまう。

「……次、行こうか」
「おう……」

オレのげんなり感が通じたのか、フレンは次へと促してくれた。

街中を歩いていたが、とうとう街外れまで来てしまった。
ここで市民街も終了で、こっからは足を伸ばすと、帝都の外に出てしまう。
どうする?
と視線だけでフレンに問うと、フレンは黙ってオレ達の上をいちゃいちゃしながら歩いている二人に視線を向ける。
が、その二人の視線はと言うと…。

「あれは…教会?」

街外れの綺麗なステンドグラスのある教会。

「…なぁ…。もしかすると…」

今度こそ、逃げ切る為。
きっとこいつ等の事だっ。
あれをしたいと言うに決まってる。
フレンに気付かれる前に、一歩二歩と後退する。
ユウリが口を開く前に、オレは逃げるっ!!

『あんな綺麗な教会で結婚式を挙げて…』

今だーーーっ!!
くるっと振り返って全速力で逃げようとした。
実際、振り返って一歩は進めた。
……が。

「…どこに行くんだい?ユーリ」

…しっかりとバレてしかも、ぎっちりと腕まで握られていた。

「頼む、フレン。オレは限界なんだっ!!」
「気持ちは分かる。が、ここで君を逃してしまったら、この二人を成仏させる事が出来なくなる。それに…」

急に口籠るフレンの顔色がどんどん悪くなっていく。

「お、おい?フレン…?」
「…頼む、僕の為にも、逃げないでくれ…」

フレンのありえない顔色の悪さに、オレはどうする事も出来なく、またしても逃亡は失敗してしまった。
そのまま顔色の悪いフレンに引き摺られ、街外れの少し小高い丘にある教会へと足を伸ばす。
教会の中へと足を踏み入れると、そこは外からも見えたステンドグラスが太陽の光に色をつけて差し込ませ、教会特有の厳かな空気を纏った空間だった。

「……よくよく考えれば、成仏出来ない幽霊ってこういう場所に入ったら成仏出来たりするんじゃねぇ?」
「あぁ、そう言われれば、そうだね」

で、やっぱり視線は空を浮いている二人に向かうのだが…、変化全く無し。
おいおいおい。
ここの神父、手でも抜いてるんじゃねぇか?

『そう言う訳ではございません』
「へ?」
『私達がユーリ様とフレン様に取り憑いている為、この程度では何の衝撃にもならないのです。それでも聖水とか、ホーリィボトルなどかけられると話は別ですが』
「…ホーリィボトル…」

そういやポケットに一つ入ってたような…。

『それでも私達が目的も達成できずに無理矢理成仏させられそうになったとしたら、私は暴れるでしょうけれど』

……。
ずっと、思ってたんだが…。

『はい?』

こいつ…結構いい性格してやがる…。
じっと睨みつけると、ユウリはにっこりと笑った。
それが何か悔しくて視線を逸らすと、その逸らした先でフレンが青い顔をしてしゃがみ込んでいた。
慌てて、オレも膝を折ってフレンを覗くと、ぐっと口元を抑え何か吐き戻そうとしてるのを我慢している様に見えた。

「おい、マジで大丈夫かっ?」
「大丈、夫だ。…それより、フレズ。結婚式を挙げたいんだったな。そんな大々的には出来ないがそれでもよければ、するかい?」
『いいのですか?フレン様』
「あぁ。ちょっと準備が必要だけれど、それを手伝ってくれる仲間もいる事だし」
『あ、ありがとうございますっ!!』

フレンがゆっくり立ち上がるのを補助してたから今のセリフをさらっと流してしまったが。
ちょっと待て?
仲間がいる…?
嫌な予感がして、静かに今しがた自分達が入って来た入口を振り返ると。
そこには、それこそ仲間が。
オレ達凛々の明星の仲間達がニッコリ笑って立っていた。
どうやら、オレ達の後ろをこっそり尾行していたみたいだった。
いつもだったら気配に敏感なオレが気付けない訳はないのだが、それも常に一緒にあるユウリの気配で分からなくなっていたようだ。
…結局、オレはしっかりと逃げ遅れた様だ。
女達がエステルがブラシを、ジュディスが化粧道具を、リタがウェディングドレス―――と思わしきもの―――とパティが今履いている靴よりももっと高いヒールの白の靴。
それに目を輝かせるユウリと、虚ろな目になるオレ。
……終わった、オレ。
この世界で最強クラスの女達の集団にこの動き辛い恰好で敵う訳も無く…。

「さぁ、行きましょう。ユーリ」
「綺麗にしてあげるわ」
「あ、そういえば、ヴェール持ってくるの忘れたわ」
「ウチが持って来てるのじゃ」

あー…。
オレの腕はしっかりと女達に掴まれ、そのまま教会の奥へと連れ込まれるのだった。

……そもそも、オレは男だと、……何度言ったら気付いて貰えるのか…。
言っても無駄だと思いつつも、せめてもの抵抗に言い続ける事を決めた。
そして勿論届く事はない。