アンフィヴィエ
【2】
目が覚めたのは、鳥の鳴き声が朝を告げたからだった。
ふと、何時もの様に目を開くと、視界に入ったのは朝日の輝きを反射して更に光る金色で。間近にある双碧がオレの顔を覗き込み幸せそうに微笑んでいた。
疑問は次々と湧きあがる。
何で、フレンがオレのベットで一緒に寝ているのか?何で、フレンがオレの顔見て幸せそうに笑っているのか?何で、オレとフレンは裸なのか?
色々。
ホントに色々あるが、とにかく聞きたいのはこれだ。
「なんで、お前ここにいるわけ?」
「え?何でって決まってるだろ?ユーリが本当に『女性』になったのか確かめる為だよ」
「……だからって、裸にする必要あんのかよ…」
「勿論。でも大丈夫。どこもかしこも女性になってたよ。…凄く、嬉しいよ。ユーリ」
それは本当に嬉しそうに微笑む。
フレンの腕がオレをきつく抱きしめた。
……ん?ちょっと待て?
今、女になったって言ったか?こいつ。
一瞬思考が停止した。
えーっと……女に…?
そっと、フレンの体を離し、空間を作ると自分の胸元を覗き込んで、再び動きが止まった。
けれど、さっきみたいな衝撃は無い。
なんだ。やっぱり女になったのか。
フレンに愛してるって言われた時、こいつの我儘なら聞いてやってもいい。
確かにそう思っていたからこの変化も頷ける。
しかし、さっきのフレンのセリフから考えると、オレ、こいつに体調べられたって事か?
それは…、普通の女だったら絶対嫌がるよな。
ってゆーか、セクハラ?
騎士団長がそんなでいいのか…?
呆れたようにフレンに視線を戻すと、ニコニコ。それはそれはオレが知っている中で最上級の笑顔で。
……突っ込みを入れる気も失せる。
「とりあえず、フレン離せ」
「……」
「いやいやいや。駄目だ。騙されねーぞ。そんな風に不満そうな顔をしても駄目だ。とにかく離せ。オレ自身に何も確認させねーつもりか?」
「…はぁ。仕方ないな」
何が仕方ないだ。
しぶしぶオレの体から手を離したのを確認すると、体を起こした途端、下半身に鈍い痛みが走る。
…まだ、変化した体から疲れが取れてないのか?
ベットから足を降ろし、軽く力を込め立ち上がる。
…やっぱり、腹?腰か?とにかく、変に痛だるい。
「ユーリ?どうかした?」
ただ裸で突っ立っていたら、フレンが不審に思ったのだろう。
でもまー、そんな大した痛みじゃねーし。
「んー?大丈夫だろ。多分。それよか、オレ少し縮んだ?」
「うん。みたいだね」
フレンが横に立つと、ふわりとシーツにくるまれた。
背中からかけられたシーツを無意識に触れながら、視線をフレンに移すと、同じ目線だった筈なのに、少し上になっている。
「でも、そんなに縮んでないよ。精々2、3cmってとこかな?」
「元々あった物が無くなるって、微妙だ」
「ははっ。そうかもね。声も若干だけど高くなってるね」
「そうか?」
「うん。可愛い」
「………お前なぁ」
オレが女になった途端、何だ。この砂所か砂糖を吐けそうな位のセリフは…。
そして、さっきから。
「お前、その蕩けきったその顔、何とかしろ」
「えっ!?」
「だらしない。恥ずかしい」
「あ、あれ?ご、ごめん。ユーリが可愛くてつい」
「それも止めろ」
何だかだんだん恥ずかしくなってきた。
顔がぼかぼかあっつい。シーツに顔を隠すようにしてフレンを見ると、もともと赤かった顔が更に耳まで赤くなって、タコのようだ。
や、やばい…。
この雰囲気はマジで恥ずかしい…。
…話題。そうだ。話題を変えようっ!
「そ、そういや。オレ何日寝てたんだっ?」
「え?あぁ。丸2日ってとこかな」
「あー、2日か。そうか。それなら良か…はぁっ!?2日っ!?」
「え?うん」
「ちょっと待て。それじゃっ」
今日がカロルと約束していた日?
『カロル、オレ今日から三日間。籠もるから』
『へ?い、いきなり何言ってんの?ユーリ』
『悪ぃな。ちょっと体の調子が悪くなるんだよ』
『えっ!?そうなのっ?大丈夫なのっ?』
『おー。三日貰えりゃどーにかなんだろ』
『そっか。分かった。じゃ、ユーリは今日から三日間休暇ね』
『その間の誰もオレの部屋に入れね―で貰えるか?』
『何で?』
『んー、それは後で話す。頼むわ、カロル』
『分かった。でも、三日したら、部屋行くからねっ。僕にだってユーリを心配する権利はあるんだからっ』
『ははっ。分かった分かった。ありがとな、カロル』
あの時、ここギルドの本拠地。ダングレストの凛々の明星のアジトのリビングで会話した内容を思い出す。
しかし、カロルはホンット純粋で可愛いボスだな…。明日から具合が悪くなるって言って普通信じるか?ちょっと、カロルの純粋さが心配に…。
って、違うっ!!
ちょっと待てよっ!?
フレンが部屋に来たのは籠り初めて一日目でそっから丸2日経ったって事は…?
「ユーリっ!!約束だよねっ!!」
恐れていた事態になってしまった。
ドアを景気良く開き、カロルが飛び込んで来て、その場の空気が止まった。
とりあえず、状況を整理しよう。
今、オレは女になって真っ裸の上にシーツを被って立ってる。
隣にいるフレンはオレの横で、ボトムだけ履いた上半身裸でオレの側に寄り添ってる。
んで、カロルはそんなオレとフレンがいかにも恋人同士の朝を迎えたであろう場面に突入してきた、と。
「あ、え、っと。お、お、お、お邪魔しましたぁっ!!」
バタムッ。
ドアが開いた時以上に音を立てて閉められた。
え?あ?………え?
「ふふっ。カロル、顔真っ赤だったね」
真っ赤…?
え、何?カロルもしかして、そーゆー勘違いしたのか…?
「ちょ、ちょっと待てっ!カロルっ!!」
叫んだ時には既にカロルの姿はドアの遠く向こうにいたのだった。



