アンフィヴィエ
【3】
「ちょっと、ユーリ。せめて下着つけるとか」
「んな事気にしてられっかっ」
シーツを被ったまま、部屋を飛び出して行ったカロルを追い掛けるオレをフレンが追い掛けて来る。
だって、そうだろっ。
オレとフレンはまだそんな関係じゃっ……いやいや、違う。
まだとかオレ期待してるみたいじゃねーかっ!!
……いやいやいや。ちょっと待て、落ち着けオレ。もしかしなくても、期待してもいいんじゃないか?
だって、オレコイツに告白されたし。
ピタッと必死に動かしていた足を止める。
すると、突然止まるとは思わなかったのか、驚いたようにフレンがオレのすぐ後ろで足を止めた。
「ユーリ?」
って事は告白されてそれを受けて女になったって事は、オレはコイツの告白を受け入れたって事になるのか?
それは、それで…。
「ああぁぁぁ…」
「ユーリ?どうしたんだ?」
穴があったら入りたい。
むしろ出来るならここにアジトの廊下だってゆー事も関係なく今すぐここに穴を掘って自分を仕舞い込みたい位には恥ずかしい。
顔を覆い、膝をおったオレをフレンが心配そうに向かい合い座り込む。
けど、フレンには絶対分からない。この恥ずかしさ。どうしてくれよう。
「兎に角ユーリ。服を着よう?風邪を引くよ?」
「そうだな…」
とか言いつつ動きそうもないオレに焦れたフレンがとった行動は。
「仕方ないな。よっ、と」
「うわっ!?お前、行き成り何しやがるっ!?」
「仕様が無いだろう?君が一切動きそうにないからね」
まるで子供の様に腕に抱えあげられる。
もともとそんなに身長が低くないオレは、フレンに抱えあげられると、凄まじく天井に頭が近くなって、逆に危ない。
ってか、気にする所はそこじゃない。
一言文句を言ってやろうとしたのだが、予想外の声に割り込まれた。
「あら?フレン。それに…ユーリ、かしら?」
何故に疑問形?
そう思って見下ろす形になるジュディスに視線を移すと、当の本人は違う所を見ていた。
「?ユーリ、貴方女性になったの?」
「あ、あぁ。って、え?」
「私はてっきり男性になるものだと思っていたのだけれど…そうなの。フレンの影響かしら?」
…何だ?この状況。
全部分かりきられてるようなこの状況は何だ?
「でも、兎に角部屋に入ったらどうかしら?折角リビングの前にいるのだし」
「それも、そうだね」
「え?おいっ。フレン」
もう既にオレに選択権は無いらしい。
確かにカロルを追い何時の間にかリビングの前にいた。
それに気付かない位オレは恥ずかしさに打ちひしがれていたと言う事だろうが。
フレンはオレを抱えたままドアを開け中へ入ると、そこには顔を赤くしたカロルとお昼寝真っ最中だったのをカロルのタックルを喰らって起こされたラピードがいた。
カロルはオレの顔を見た途端、更に顔を燃やしていた。
「ぼ、僕何も見てないよっ!」
「いや、見てても構わねぇから、ちょっと人の話を聞け」
「フレン、カッコいいから恋人の一人や二人や三人や四人。気にしないよっ!」
「え?ちょ、ちょっと待ってくれ。もしかして僕の方かっ?」
「うふふ。何か面白い勘違いが飛び交ってるみたいね」
「笑い事じゃねーってのっ!カロル、兎に角話を聞け」
「え?あれ?この喋り方ユーリ?」
カロルが落ち着いた所でその場にいた全員が、ソファへと腰を下ろした。
「ねぇねぇ。ホントにユーリなの?」
「おう。ってか、さっきお前オレの部屋に入ったんだろうが」
「それは、そうだけど。てっきり…」
一瞬の間。そして向かい合ってソファに座っているカロルの視線がふいっとフレンに移され、そこでピンときた。
「はは〜ん。成程。要するにカロルは、フレンが女を連れ込んでたと。そう思ったんだな?」
「違うの?」
「違うっ。カロル、騎士団長に恋人が何人もいるとか、怖い勘違いはやめてくれ」
カロルの疑いにフレンの首と肩が床に付きそうな位、落とされた。
それを横目で見て笑っていると、カロルが焦った様に「だって、ユーリが部屋に誰も入るなって言うから」と言葉を続け、フレンの表情は更に渋い物になった。
「それな。それは、ほら。『これ』の所為だよ」
「?」
言っている意味が分からないんだろう。
それはそうだろう。だか、裸を見せる訳にはいかないしな。
仕方なく、オレは、シーツを胸の位置に撒き付け、胸を強調した。
「え?あれ?ユーリ?それ…」
「オレはな、カロル。『ヒト』であって『人間』じゃないんだ」
「どうゆう事?」
意味が分からない。
そう言いたげに首を捻るカロルにジュディスが手を差し伸べた。
「私と同じよ。私は、『ヒト』ではあるけれど『人間』ではなく『クリティア族』と言う種族でしょう?」
「あ、そっか。じゃあ、ユーリは?」
「ユーリは、『アンフィヴィエ族』と言う種族のヒトよ」
「やっぱり知ってたのか」
「えぇ。貴方はどこか中性的だったから」
流石ジュディスと言うべきか。
だが、まぁ。ジュディスに隠し事するのは一苦労だ。
これはこれで良かったのかもしれない。
「けど、ホントに女性になったのね。私はてっきり男性になるものだと思い込んでいたから」
「まー、オレだって男になる気満々だったんだけどな」
「あら?じゃあ、どうして女性に?」
「それはー…あー、ま、色々あってだ」
フレンに告白されて嬉しくて女になりました。
……なんて言えるかぁっ!!
またしても頭を抱えて蹲りたくなる衝動が起こる。
それを遮ったのは、カロルだった。
「と、とにかくさっ。ユーリはユーリだってことだよねっ」
「……あぁ。そうだ。オレはオレだ。ま、しばらくはこの体に慣れるまで時間が必要だと思うから、そこらへん宜しくな。カロル」
「うんっ!じゃあ、これからの依頼と日程組み直さないと」
「それより、カロル。私依頼から帰って来たばかりで疲れてしまったわ。シャワー入って来ていいかしら?」
「え、あ、うん。いいよ」
「ありがとう。じゃ、行きましょうか。ユーリ」
「へ?」
「色々聞きたい事があるし。ね?」
有無を言わさずジュディスはオレの手を握り、さっさとリビングを抜けて、風呂へと向かう。
……何か、今日一日目を覚ましてから、振り回されている様な気がして堪らなかった。



