理想的な人。
【中編】
学校について、HRが終わり、二時間目も終了した。
そして今は次の時間までの休憩時間。
…ハッキリ言おう。
ぶっちゃけた話、授業内容さっぱり頭に入って来なかった。
ルークに色気をつけさせるには…。
そればっかりを考えていた。
「ユーリ」
けど、色気だろ?
こう言っちゃなんだが、オレやルークみたいなタイプは色気と程遠い所にあるじゃねぇか。
それで色気をつけさせるとか、無理過ぎる。
「おーい、ユーリー?」
オレだけで考えても、この答えは出ねぇよな?
ルークにして見たら、要するにあの鬼畜眼鏡保健医にひと泡吹かせられればいいんだろーし。
よしっ。
「ユーリっ!!」
「うわっ!?」
突然眼前にフレンの度アップがあり、驚き後ろに仰け反り危うく椅子から落ちかける。
「お、おま、い、いるならいるって言えよ」
「さっきから名前を呼んでいたよ。ガイと二人で呼んでも気付かないんだから」
言われて前の席に座ってるガイが振り返っているのに気付く。
「らしくないな。どうした?ユーリ」
「朝からそうだよね。変な行動ばっかり。どうかしたのかい?」
「あぁ、それがな。…調度いいや。相談のれ。二人とも。実はな…」
オレは、取りあえず朝の一連のやり取りを簡単に二人に説明した。
すると、フレンは何とも微妙な顔をして、ガイは今にも涙を流しそうな表情をする。
「ルークが色気、色、気…くぅっ…。父さんの知らない間に大人になっていくのか…」
「……まぁ、この似非父さんは置いといて、どう思う?フレン」
「ぼ、くに、聞かれてもな…」
少し顔を赤らめて、視線を逸らすフレンに、だよなぁと頷き返す。
「なぁ、フレンはオレに色気って感じる時あるか?」
「えっ!?そ、れは…」
「やっぱねぇか?」
「あ、あるよっ!勿論っ!!けど、その…何て言うか」
黙ってしまった。
でもそっか。
オレに色気を感じる時もあるのか。
何だろ、ちっと、嬉しいぞ?
しかも、そんな風に顔赤くされると、何か…オレまで、なぁ?
オレとフレンが互いに顔を逸らして、顔を赤らめていると、何か呆れた様な溜息が聞こえた。
「独り身の俺の前でおたくらは堂々といちゃついてくれるねー」
「い、いちゃついてなんかっ」
「……ガイ。朝のあれでまだやられたりねぇの?チャレンジャーだな」
じりっと近付き手を伸ばすと、ガイは凄まじいスピードでガタガタ音を立てながら後方へと逃げる。
椅子と机持ちながらってどんだけ器用なんだ。
「…っとに。んで、本題に戻るぞ」
「ルークに色気、か?」
「そう」
「あのルークに色気、ねぇ。そりゃ難題だな」
「だろ」
どうしたもんだろう。
「大体あいつも聞く相手が間違ってんだよ」
「と、言うと?」
「オレみたいな奴に色気なんてある訳がねぇだろ。それをどうやって説明しろってんだよ」
手をついて顎を乗せると、大きくため息をつく。
するとガイとフレンが顔を見合わせて、何とも言い難いとそう言いそうな複雑そうな表情をした。
「あー…っと。まぁ、あれだ。ユーリ」
「ん?」
「お嬢様の事は俺に任せとけ。上手くやってやるよ」
「でもなぁ、オレが任された訳だし」
それを無責任に放棄するのも、オレ的には嫌なんだよな。
ルークに頼られるのも嫌いじゃないし。
「大丈夫だって。ユーリにもちゃんと協力して貰う」
「協力?」
「あぁ。何時ものユーリを見せてくれるだけで良い」
「何時ものオレ?それってどういう」
キーンコーンカンコーン…。
オレの言葉に重なる様に授業開始のチャイムが鳴る。
ガイはポンポンとオレの背中を軽く叩くと、ウィンクをして授業の準備に戻った。
フレンとオレは首を傾げながら顔を見合わせると、そこへ次の授業の教師が教室へと入って来て、ガイの真意を聞く事無く次の授業が開始された。
※※※
「むぅ〜…」
「まぁ、ルーク。女性にあるまじき表情をなさって、どうされたの?」
「ルーク、分からない問題があるのなら、ちゃんと聞いた方がいいわ」
「ルーク、どうしたんです?」
俺が机をガタガタ揺らしながらむくれていると、それを不思議に思ったのか、それぞれ結構勝手な事を言いつつ心配してくれた。
ナタリアはお小言付き、ティアは的外れ、エステルは純粋に訊ねて来る。
「今日、朝ユーリに教えて欲しい事があって聞いたんだけど、答えてくれなかったんだ」
「…ユーリが、です?」
聞き返され、俺は頷く。
でも、それをエステルは不思議そうに首を捻った。
「ユーリは、質問したら大抵の事は答えてくれると思いますが」
「でも、答えてくれなかった」
視線逸らして、話題も逸らして、朝は別れちまったし…。
何だかんだでフレンとガイが邪魔するし。
むぅ〜…。
「ですが、ルーク。ユーリにもきっと答えれる事と答えれない事がある筈ですわ」
「そうね。必ずしも聞いたら答えてくれるとは限らないもの」
「そりゃ、そうなのかもしんねーけどさ」
でも、ユーリは毎回仕方ねぇなって笑いながら大抵の事は答えてくれるんだよ。
なのに、今回は答えてくれなかった…。
うぅ〜……俺なんかやっちまったのかな?
あ、何か泣きそうだ…。
うぅ〜っ!!
がたがたと再び机を揺らしてると、誰かの手が頭に触れた。
「ルーク、きっと大丈夫ですよ」
「エステル…」
「私もユーリに質問してたまに『ちょっと考えさせてくれ。後で分かりやすく教えてやっから』って後から教えてくれる事がありますし。きっと今回もそれですよ」
「そ、そっかな?俺まだ嫌われてねぇかな?」
「はいっ。大丈夫ですっ」
「ん。何か、元気出た。ありがとな、エステル」
「どういたしまして、です」
エステル、優しい…。
俺の周りにはいなかったタイプで、少し新鮮だ。
じーっと見つめると、エステルは俺の視線に気付いてにっこりと微笑む。
真っ直ぐ見ているのが恥ずかしくて俺は急ぎ俯いた。
しばしの沈黙。
何だか耐え切れなくて、俺が口を開こうとしたその時。
「ルークー。いるかー?」
聞きなれた声。
「ガイ?」
返した声が聞こえたのか、ガイは堂々と俺たちの教室に入って来た。
っつーか、ガイ、三年だろ?
何で一年の教室にいるんだよ。
ガイは俺の机の直ぐ側まで来ると、俺の顔を覗きこんで相変わらずの爽やかさで笑った。
「ルーク。昼飯は食ったんだよな?」
「え?あ、うん。食った」
「じゃあ、ちょっと俺に付き合ってくれよ」
「いい、けど。何処行くんだ?」
「いいからいいから」
手を引っ張られてぐいぐいと連れて行かれる。
…ガイ、ホント俺の事女って思ってねーだろ。
女に触られるの苦手なくせに、俺の事は何の遠慮も無く触れて来る。
「なぁ、何処行くんだ?」
「ん?それは着いてのお楽しみってね」
「???」
訳も分からず着いて行くと、そこはガイのクラスだった。
やっぱり上級生のクラスの所為か、ちょっと居づれー…。
中に入るのか?
ガイがドアに手をかけているから、そう思ったのだけど、どうやら違ったみたいだった。
こいこいと手招きされ、俺とガイは一緒にドアの隙間からこっそり中を覗く。
すると、そこにはフレンとユーリがいた。
こっちには気付いてないみたいだけど…。
クラスメート達も一杯いて騒いでいるから、こんな気配は気にならないのかもしれない。
…こんな風にユーリを見るのは初めてっつーか…。
じーっとユーリを見る。
…改めてみると、凄い細い体だ。胸はティア並みにでかいし、腰はナタリア並みに細くて、足はエステルみたいに綺麗で…。
でも、竹刀持たせると圧倒的な強さで…。
すげぇなぁ…。かっこいいなぁ…。
あぁ、なりてぇなぁ…。
あ、男に声かけられた。
ユーリは笑って受け答え、プリントを受け取るとそのプリントを覗きこんだ。
前髪が邪魔なのか、そのまま空いた手でかき上げる。
すると、前にいた男とフレンがぴたりと動きを止めるとユーリをじっと見つめてる。
まるで目が離せない、魅せられてるみたいに。
同性の俺ですら、目が離せない。……綺麗、ってゆーのか、な?
「……ルーク。あれが色気だ」
「え?」
「男が目を離せなくなる。女のユーリですら目を離せないだろ?」
実際にその通りでしかも、ガイが俺の言いたい事を代弁してくれて俺は必死に頷く。
「ユーリは自分の色気に気付いてないからな。教えようにも教えられないんだ。だからな、ルーク」
「うん」
「今日はずっとユーリの行動を見ててみな。そしたらもしかしたら何か分かるかも知れないぞ」
「うんっ」
早速俺はユーリをじーっと凝視する。
ユーリがフレンと何か話してから、こっちを見て…ってあれ?
こっちに歩いてくる。
や、やべっ、に、逃げなきゃっ。
慌てて、俺はその場を離れてダッシュで教室へと戻った。
教室に駆け込むと調度良く昼休み終了のチャイムが鳴り響き、何とか逃げ切る事が出来たのだった。



