僕の手が届く距離。





【4】



ユーリがザウデから落ちた。
その次の瞬間、全ての記憶が戻って来た。

そう。ユーリに関する記憶が…全て。
その記憶が促すまま…僕はユーリを探した。ユーリに聞きたい事がある。
騎士団の時も僕が苦しむと思って記憶を操作したと言っていた。
だから、このユーリを愛おしいと思う気持ちすら封印されてしまった。
けれど、今ユーリはそれを封印する力すら失う位の重体なのだ。
そうでなければ、僕の記憶が戻る筈がない。
…捜索出来る限り捜索したが、やはり見つける事は敵わなかった。
だが、どうしてか。
ユーリが死んだとは思えない。
僕は捜索を止め急ぎ船に戻り、リタとジュディスを船室に呼び出した。

「呼んだかしら?フレン」
「あー、もう。何の用よ」
「…君たちを呼んだのは他でもない。ユーリの事だ」
「何?捜索ならもう止められたんでしょ?」

リタの言葉にジュディスも頷く。
だが、僕がお願いしたいのはそこじゃない。

「あぁ。けど、僕が頼みたいのはそれじゃない。…これは、僕の予想に過ぎない。けど、何故か確信がある」

真剣な僕の表情を見て、二人の顔が引き締まった。

「ユーリは生きている。けど、姿が見つからないのは、きっと彼の体が一時的にエアルになっているからだ」
「なっ!?」
「それは、どう言う事かしら?」
「彼は『満月の子』の兄である『凛々の明星』そのものなんだ」

僕の言葉に二人が戸惑う。
確かに戸惑っても仕方ない事だ。
けれど、僕にはこれがユーリの正体なのだと確信がある。
それは、幼い頃ユーリが崖を飛び降りる前。
彼はエアルに包まれていた。
幼い時はそれが何故か分からなかったが、今思うとユーリは幼い時『凛々の明星』としての記憶を失っていたのだろう。
だから、自分の力を制御する事が出来ずに、エアルとなり人々の記憶からユーリの存在が消えた。
しかし、それから騎士団に入ってユーリと再会した時、僕はユーリを知っていた。
その事をユーリは言っていた。

『名前しか思い出せない様にしたのに…』と。

実際僕はユーリの姿を見るまで、名前しか記憶に残っていなかった。顔も姿も性格も。何も思い出せなかった。
けれど、ユーリにとってこれは誤算だったのだろう。
僕はユーリに会った時、全てを思い出したのだ。
だから、ユーリは言った。

『オレを『思い出して』くれた事は凄く嬉しい…』

思い出してと言ったんだ。
その時の泣きそうな微笑みに僕はまたユーリを好きになったんだ。
でも、それを告げるとユーリは僕を苦しめたくないと、僕のユーリを好きだと愛しいと思う気持ちを封印した。
あの時キスを通じて僕に入りこんだのは、エアルだったのだ。

ユーリが何故、エアルを操る事が出来るか。
それは最初に言った通り『凛々の明星』だから。
既に、肉体を失った存在だから…だ。

僕は二人に言うと、ジュディスは言葉を失い、リタの瞳からは涙が溢れだしていた。

「じゃあ、何?あのバカは、こんな星に、こんな世界に何年も何年も縛られてるのっ?」
「…あぁ」
「なんで、言わないのよっ」
「ユーリは…そう言う人なのよね」
「あぁ。きっとユーリは何処かでまた、エアルを使いまた僕たちの記憶を操作する。でも、僕はもう嫌なんだっ。ユーリを想うこの気持ちを失いたくないっ!ユーリを失いたくないっ!!」
「フレン…」
「頼む…。本当に個人的な事を言っているのは分かっている。けれど…」

ユーリの為なら、僕の頭なんて何回でも下げる。だから…。

「…大丈夫よ。フレン。要は、ユーリが私達の記憶を操作する前に、思い出すきっかけを作っておけばいいのよね」
「…それだけじゃ、駄目よ」

ジュディスの言葉に喜びかけた僕にリタが待ったをかけた。

「それだけじゃ駄目。フレンの仮説が正しければ、ユーリはいずれエアルと一緒にいなくなってしまう」
「それは、何故?」
「ユーリは今エアルの力を使って自分の体を生成している。それは目的があるから。きっと星喰みを封印する前からあった目的。星喰みを倒すと言う事。それが無くなってしまえば、ただのエアルに戻ってしまう」
「…それは、死と同じ事ね。ユーリと言うそのものが無くなるんだもの」
「…どうする事も、出来ないのか…?」
「どうにかして見せるわよっ!絶対にっ!!」

リタが力一杯宣言した。その横でジュディスも力強く頷く。
二人が凄く頼もしかった。

「けど、今はジュディスが言ったように、記憶を取り戻す方法を考えておく方が先決ね」
「誰に渡しとくのが一番かしら…?」
「…そうね。エステル、じゃないかしら?」
「エステリーゼ様に?」
「えぇ。エステルは今エアルの干渉を受けない様になってるから…。だから、魔術を使う時代わりに生命力が削られて行ってるんだけど」
「そうか。だとしたら、エステリーゼ様だけはユーリの記憶操作を受けずに済む」
「そうゆう事」

だったら、早速準備に移ろう。
僕の言葉に二人は頷き、二人は仲間にも教えると船室を出て行った。

ユーリ…。
今度こそ僕は忘れない。
君を失わない…。

だから…、君も僕を求めてくれ。

僕は心の中でユーリに届くようにと、深く深く祈った…。