若葉





【5】



「ユーリっ!!」
「分かってるっ!カロル、行くぜっ!」
「OKっ!!」

素早く、カロルを小脇に抱え、フレンの組まれた手を踏み台にして高く飛び上がる。
更にカロルを放り投げて、オレは地面に着地して、カロルが天辺のエアルの筋を斬った瞬間に、両足に同時攻撃を仕掛けた。
弱点を知っているゴーレムに後れをとったりはしない。
止めと言わんばりに、リタが高度な魔術でゴーレムを粉砕した。

「う〜ん。やっぱり威力が弱いわね。魔導器久しぶりに使ったけど、コアの性能とここのエアル濃度が…」

何か色々思う所があるらしい。
リタが座りこんで考えてしまいそうになっている。
慌ててエステルが駆け寄り、リタの思考を現実に戻しオレ達も倒し終わったゴーレムから離れ、リタの下へ集まる。

「あれ?そいや、おっさんは?」
「あれ?そう言えばいないね。でも、まー何時もの事だし」
「そうよ。何時もの事だから気にする事無いわよ」
「それより皆。奥の方に魔導器があるんだが」
「…来る前に話していた魔導器ですね。…リタ」
「エアルの流れが止まると、暴走する仕組みになってたのよね?」

リタの問いにオレとフレンが頷く。

「……そう。でもその機械を止めないとこの辺りのエアルの乱れは治まらないし…」
「…ですね」
「見てみないと何とも言えないわ。行くわよ」

リタが先頭に立ち、慌ててカロルが後を追う。

「…活き活きしてますね。リタ」
「だな。久しぶりの魔導器だしな」
「僕達の時代には魔導器はもうないしね。それはそれで研究のし甲斐はあるだろうけど」
「好きなモノに触れるのは嬉しいですよね」

微笑ましく見守りたくなる、が。

「お前等、強いなー」

ビクゥッ!!

すっかり忘れていた隊長達。
一気に冷や汗がだらだらと零れ始める。
それを顔に出さない様にポーカーフェイスを維持しながら、隊長と向き合った。

「そうだろー?」
「一度、お前等と手合わせした時とだいぶ違うなぁ?」

ビクゥッ!!

(フレン、どうするっ!?)
(兎に角受け流そうっ!!)

視線だけで会話して。
お互いが納得すると。

「そうかぁ?大してかわらないだろ。なんつーか、まー火事場の馬鹿力って奴だ」
「馬鹿力?馬鹿の間違いじゃないか?」
「…フレン。後で覚えてろよ」

確かに、昔は喧嘩ばかりしていたけど、…いや、今もか?
だが、昔どおりにしなくてもいいだろうが。

「おいおい。今は喧嘩してる時じゃないだろ」
『そうよっ!!行くわよっ!!フレン、ユーリっ!!』

何とか流れた空気にホッとしてオレ達はリタ達の後を追った。
崩れた瓦礫の奥。
そこには隊長の命を奪った魔導器があり、オレとフレンはじっとその魔導器を睨みつけた。
その足元でリタが必死に分析をしている。

「…ユーリ」

呼ばれてその声がした方を向くと、フレンはしゃがみ込み何かを見ていた。
一緒に覗きこむとそれは小さな魔導器だった。

「これは…」
「そう。誘発される爆弾機能を持った魔導器だ。…あいつの」
「これが…」

紫色のまるで目の様な魔導器。
エアルの流れを止めると、この魔導器が爆発し、この遺跡が崩壊する。
今度こそその流れを止めれるだろうか。
…いや。元の世界に戻る為にも止めなきゃいけない。

「取り外せるか?」
「…いや。多分無理だ。無理に取ろうとするとかえって爆発する可能性もある」
「リタに見せた方が早いか。…本体を止めた方が早く無いか?」
「ちゃんと止めれればいいけど…」

オレ達はリタの傍に集まった。

「……………これ、作ったの、誰?」

あ、怒ってる。
リタが指を頭を動かしながら、湯気が出そうな程怒っていた。

「こんな、こんな無理な繋ぎ方してっ!!魔導器が可哀想でしょーーーーーっ!!!!!」
「わ、分かった。分かったから、取りあえず、集中しろ。後で幾らでも犯人ぶっ飛ばしてもいいから」
「頼むよ、リタ。何とか…」
「分かってるわよっ!!……ブツブツ……」

ブオンッ!!
大きな音と物凄い圧の風おこり、魔導器は停止した。
今度こそ、ここは崩壊せずに終わるか?
一瞬の間。
確かに一瞬だったはずの空気は酷く長く感じた。
そして…。

ヴォンッ!!

「なっ!?」

嫌な事ほど、その歴史を書き換えるのは難しい様だ。
魔導器が暴走する音が響き渡る。

「嘘でしょっ!?アタシは確かに機能を停止させたはずなのにっ!?」
「再起動、…やっぱり…」
「そう簡単には行かねぇってよ」

バキンッ!バキンッ!
魔導器があの時と同じように暴走を始めた。

「皆、散れっ!!!!」
「直ぐに逃げるんだっ!!!!」

コードが切れて地面に落ちて行く。
だが、オレ達の声の方が早かった。
皆逸早く動き出す。

「逃げるったって、何処へっ!?」
「まず、この場所から退避するんだっ!」
「ここは地雷があるっ!とにかく逃げろっ!!」
「エステル!フォースフィールドを展開しろっ!!」
「はいっ!!」

直ぐに行動に移る。
ヒスカとシャスティルに細心の注意を図り走る。
これだけ、早く逃げていればきっと…ってっ!?

「リタっ!!何してんだっ!!早くこっちに来いっ!!」
「待ってっ!!もう少し、もう少し調べさせてっ!!この子を助けたいのっ!!」
「無理だっ!!リタ、戻ってくるんだっ!!」
「嫌っ!!ここでちゃんと制御さえすれば、この子も皆も無事にすむかもしれないじゃないっ!!」
「…くそっ!エステルっ!術の準備だけしててくれっ!ヒスカ、シャスティルも出来るなっ!?」
「任せてっ!」
「こっちは気にしないでっ!」
「ユーリ、フレンっ!リタをっ!!」

大きく頷いて、オレとフレンは今だ魔導器の下にいるリタに走り寄る。
確かに、リタが抑えているのか、まだ地面に埋まってる魔導器は発動していない。

「ほえ〜…すげぇなぁ…」

隊長がリタの横で只管感心している。

「…っつーか、それ所じゃねぇしっ!!」
「そうですよっ!!隊長っ!!ここは危険なんですっ!!」
「逃げるぞっ!!」
「おーい。おまえらはそんなに仲間を信じられねぇのか?」

おちゃらけた様な口調だが、隊長の目はオレ達に訴えていた。
けど、…オレ達は…、オレとフレンは隊長と皆が生き残る方が大事なんだ。

「そうじゃねぇよ…。そうじゃねぇんだ」
「隊長…僕達は…」

これ以上口に出す事も出来ずにぐっと歯を食いしばる。
そんな沈黙をリタの焦った声が打ち破った。

「なんでっ!?どうしてよっ!!どうして、何をしても再起動するのっ!?これじゃ、止まらないじゃないっ!!」

泣きそうな声で叫ぶ。
逃げるぞ、そう口を開きかけたその時。

「…リタ姐。時には諦めも肝心じゃぞっ。ヴァリアブルトリガーっ!!」

ガンガンガンッ!!
銃声と同時に魔導器の核にひびが入る。
グゥゥゥン…。

「…止まった…?」
「あぁーっ!?貴重なコアがぁーっ!!」
「人の命に比べれば、大したものではなかろう?」

天井が一か所崩れ、その中から金髪の女性が飛び降りて…。
待てよ?この口調に髪の色、身長が本来より高くてって言うかむしろ立派な女だが…もしや。

「パティかっ!?」
「のじゃ。まぁ、正しくはアイフリード、じゃがの」
「パティっ!何て事をっ!!」

はっきりと直ぐ側に着地したパティにリタがいちゃもんつける。
だが、そこはパティで。

「…リタ姐。それはここにいる人間皆の命より重い物なのか?」
「うっ…わ、分かったわよ」

一刀両断した。
流石と言うか何と言うか。
長く海で数多くの海の男達を引きいてきた頭領なだけはある。
逆らう事を許さない空気でリタを押しとどめた。

「コアさえ無くなれば、動かなくなる。けど、それによってエアルの供給は止まる…」

全ての魔導器が暴走を始める。

「今度こそ逃げるぞっ!」

走り出す。
けれど。
ガガンッ。
激しい音を立てて壊れた魔導器の管が、

「きゃあっ!?」

リタに直撃する。
軽いリタはあっさりと飛ばされて地面に叩きつけられた。
咄嗟に防御をしたのか、意識はしっかりあるが、衝撃の所為で直ぐに動け無い様だ。
急いで、隊長が駆け寄り担いで走りだす。
地面の魔導器が爆発を始め、どんどん地面が沈んで、落ちて行く…。

「急げっ!!」
「隊長っ!!」

何時かの再現だろうか。
オレと皆は何とか間に合い、フレンが転がる様に滑り込み、隊長が後一歩って時に地面が崩れ落ちて…。
まるで時が止まった様に、目に映る映像がスローモーションのように流れて行って…。

「隊長っ!!」
「ユーリっ!!」

ダンッ!!
傾きかける地面に逆らう様に踏み出して、隊長がリタをオレに投げつける。
リタ位なら倒れる事もない。
そのまま、リタをエステルに預けて急いで崩れ離されたギリギリまで走り寄った。
何時かと同じように隊長が膝をついてオレ達を見上げていた。

「…隊長っ!!」

隊長は覚悟を決めたあの目でオレを見つめている。
あの時のオレ達はここで隊長が沈んで行くのを見ているしか出来なかった。
けど、今なら…っ!!

「今なら…。オレ達凛々の明星ならいけるっ!!絶対に助けるっ!!」